名古屋高等裁判所 昭和43年(け)12号 決定 1968年11月04日
主文
本件申立を棄却する。
理由
本件異議申立の理由は、末尾添付の「異議申立書」と題する書面に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、申立人は、昭和四三年三月一九日名古屋簡易裁判所において、道路交通法違反被告事件について、罰金三千円に処する旨の有罪判決を受け、同判決に対し、即日名古屋高等裁判所に控訴を申立てたところ、同裁判所は、同年四月九日付で公判期日召喚状ほか二通の書類を申立人宛郵送して来たが、同郵送書類中には、控訴趣意書差出最終日を記載した書類はなく、また前同裁判所は、その後も申立人に対して、なんら控訴趣意書差出最終日の通知をしなかったのにもかかわらず、同年五月七日突然申立人に対し、申立人が前同裁判所の指定した期間内に、控訴趣意書を提出しないとの理由で、控訴を棄却する旨の決定書を送付して来たが、これは明らかに違法であるから、右の決定の取消を求めるため、異議の申立をする、というに帰着する。
そこで、申立人に対する道路交通法違反被告事件の本案記録および本件異議申立事件記録を精査し、更に当審における事実取調べの結果を参酌したうえ、原決定の当否につき案ずるに、右各記録および当裁判所の事実取調べの結果に徴すれば、申立人は、昭和四三年三月一九日名古屋簡易裁判所において、道路交通法違反被告事件により罰金三千円に処する旨の判決言渡を受け、同判決に対し、即日控訴の申立をなしたこと、名古屋高等裁判所刑事第二部は、右事件を受理したうえ、同年四月九日、同事件の控訴趣意書差出最終日を昭和四三年五月二日と指定し、同部裁判長は同じ四月九日同事件の公判期日を同年五月二三日午前一〇時と指定した。そこで同部係裁判所事務官田原良一は、同じ四月九日同部所属の裁判所書記官の作成した控訴趣意書差出最終日の通知書、公判期日召喚状、弁護人選任に関する通知書並びに弁護人選任に関する回答書用紙を個別に点検したうえ、これを一括して同封し、申立人に宛てて特別送達郵便に付したこと、右封書は、翌四月一〇日申立人が裁判所からの書類送達場所としてさきに届け出ていた名古屋市中村区堀内町三の一四中村やす方に送達され、申立人は、そのころ右中村やす方の女事務員から右封書を受取ったこと、しかるに、申立人が、右指定にかかる控訴趣意書差出最終日までに前記高等裁判所に所定の控訴趣意書を提出しなかったため、同裁判所は同年五月四日刑事訴訟法第三八六条第一項第一号により、控訴棄却の決定をしたことがそれぞれ認められる。申立人は、前記封書の中には、控訴趣意書差出最終日の通知書が入っていなかった旨縷々主張するけれども、当裁判所の事実取調べの結果に徴すれば、申立人は同年五月六日ごろ、当裁判所刑事第二部に架電して、同部係書記官に対し、控訴趣意書差出最終日の通知書に記載された控訴趣意書差出最終日である「五月二日」を「五月一一日」と読み間違えていたので、なんとかならないかなどと問い合わせた事実が認められ、これによれば、前記封書中に控訴趣意書差出最終日の通知書が同封されており、申立人が、右控訴趣意書差出最終日の通知書を当時読んでいたことが十分推認されるのに加え、申立人に対する前記道路交通法違反被告事件の本案記録中に編綴された昭和四三年四月九日付郵便送達報告書(前記道路交通法違反被告事件の本案記録第二七丁)ならびに当裁判所の受命裁判官の証人田原良一に対する尋問調書中の同証人の供述記載を総合すると、当裁判所刑事第二部が昭和四三年四月九日申立人に宛て特別送達郵便に付した封書中には、所論の控訴趣意書差出最終日の通知書が同封されていたことが一層明白である。それ故、申立人の右主張は、到底採用できない。而して、前記各記録を精査検討してみても、申立人において、他に控訴趣意書を提出できない正当の理由があったものとは認められず、従って、当裁判所刑事第二部がさきに控訴棄却の決定をしたのは、正当であって、これに対する異議申立は、全く理由がない。
よって、刑事訴訟法第四二八条、第四二六条第一項により、本件異議申立を棄却する。
(裁判長裁判官 伊藤淳吉 裁判官 藤本忠雄 土田勇)
<以下省略>